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東京高等裁判所 平成10年(ラ)13号 決定

抗告人

東初代

主文

一  標記事件について平成九年一一月二八日にされた別紙物件目録(2)及び(3)記載の各不動産に係る売却許可決定を取り消す。

二  岩崎真由美に対する前項の不動産の売却を不許可とする。

理由

一  抗告人は、主文同旨の決定を求めた。その理由は、別紙のとおりである。

二  基本的事実関係

記録によると、次の事実を認めることができる。

(1)  抗告人は、別紙物件目録(2)及び(3)記載の区分所有建物(以下「本件建物2」及び「本件建物3」という。)を所有していた(昭和六二年六月二日所有権保存登記[原因・同年三月二四日売買]、なお、本件建物2、3を含む区分所有建物で構成される一一階建マンション「グローリア初穂横浜」は、昭和六二年三月二四日新築されたものとして表示の登記がされている。)。

本件建物2、3及び別紙物件目録(1)記載の土地(以下「本件土地」という。)については、平成元年五月一八日付をもって、抵当権設定登記(共同担保)がされている(原因・同日付金銭消費貸借に基づく同日付設定契約、債権額・一億六〇〇〇万円、債務者・抗告人、抵当権者・株式会社住総)。

(2)  平成八年三月三一日、住総が本件土地及び本件建物2、3につき本件不動産競売申立て。

同年四月一二日、競売開始決定。

(3)  同年五月一三日、現況調査報告書(本件建物2、3関係)提出。

[内容の概略]

(調査の日時)

四月一九日 目的物件所在地調査占有者不在につき求陳述書投函

五月二日 東武彦(抗告人の夫)から電話聴取(本件建物2、3の居住者は、抗告人の実母及びその孫二名で、抗告人が居住させている。)

五月九日 山口哲(管理会社社員)から電話聴取(管理費等の滞納額の確認)

(占有者及び占有状況)

債務者兼所有者が居宅として使用

添付資料(マンションの外観等を撮影した写真四葉(内部の写真はない。)、本件建物2、3の見取図各一枚)

(4)  同年六月一七日、評価書(本件建物2、3関係)提出

[内容の概略]

評価年月日 平成八年五月二三日(現地実査日・五月一一日)

評価額 本件建物2 一六一〇万円

本件建物3 一七三九万円

(評価額合計 三三四九万円)

添付資料(マンションの外観等を撮影した写真八葉(内部の写真はない。)、本件建物2、3の見取図各一枚(現況調査報告書添付のものと同一のもの))

(5)  同年一二月一九日、本件建物2、3につき、各別に物件明細書作成、最低売却価額決定(本件建物2につき一六一〇万円、同3につき一七三九万円)、売却実施命令(売却決定期日・平成九年三月二八日午後一時)。

平成九年二月一二日、抗告人が本件建物2、3についての物件明細書の作成手続及び内容並びに最低売却価額の決定につき執行異議申立て(平成九年(ヲ)第四〇三七号)。その理由は、本件建物2及び3は、新築時に隣接する二室を一括購入し、隔壁を一部取り除いた上、内部改装を施したもので、当初から実質一戸の建物であるから、そのような建物として評価すべきであるというものである。

同年二月一七日、平成八年一二月一九日付売却実施命令取消し。

同年三月一九日、執行異議却下決定(抗告人主張事実を認めるに足りる資料がないことを理由とする。)

同日、執行官及び評価人に対し、本件建物2及び3の隔壁の一部が取り除かれ、両建物が一体として利用されているかの確認及び各建物内部の具体的状況についての調査下命。

(6)  同年四月九日、追加現況報告書提出

[内容の概略]

同年三月二九日、評価人等とともに本件建物2、3に臨場。

在室していた東洋平(抗告人の二男)の陳述要旨

「居住者は、抗告人、長男、二男及び抗告人の実母の四人である。

両室間の隔壁の一部を撤去し、両室間の往来はできるようになっている。従来、本件建物3にあったユニットバス、洗面室、洗濯機設置場及び六畳和室の押入部分を撤去し、床板を張り、本件建物2の台所部分を撤去した。」

添付資料 改装後の本件建物2、3の手書きの見取図(隔壁の一部撤去部分につき、隔壁の厚さ約一五センチメートル、高さ約1.8メートル、幅約0.9メートルの記載あり。)、隔壁の撤去分を両建物から撮影した写真四葉

(7)  同年四月三日、評価人作成の上申書提出

[内容の概略]

本件建物2及び3の間の隔壁の一部が撤去され、両室は一体利用されていること、本件建物2は、台所を壊し、物入れにしており、本件建物3は、浴室を壊し、食堂として利用していることが判明したとして、隔壁の修復及び各建物が独立して居住できるように復元するための工事費用を各建物につき二〇〇万円を要するものと査定し、さきの評価書の評価額より各二〇〇万円を減じて、本件建物2につき一四一〇万円、同3につき一五三九万円(合計二九四九万円)を各評価額と訂正する、というもの。

(8)  同年七月七日、本件建物2、3につき、一括した物件明細書作成(備考欄に、建物間の隔壁は一部取り壊され、一体利用がされている、との記載があり。)、最低売却価額決定(本件建物2につき一四一〇万円、同3につき一五三九万円)、売却実施命令(本件建物2、3につき一括売却、売却決定期日・平成九年九月一二日)。

平成九年八月六日、抗告人が本件建物2、3についての物件明細書の作成手続及び最低売却価額の決定につき執行異議申立て(平成九年(ヲ)第四二七二号)。その理由は、主として、本件建物2及び同3は、前記のとおり、当初から実質一戸の建物であるから、そのような建物として評価すべきであるのに、各別の建物に復旧することを前提として、従前の評価額から復旧に要する工事費用を控除した額をもって各評価額とすることは不当であるというものである。

同年八月一日、平成九年七月七日付売却実施命令取消し。

同年八月八日、執行異議棄却決定(前記追加現況調査報告書によると、抗告人主張事実は認められず、評価人の評価に誤りはないことを理由とする。)。

(9)  同年九月二九日、本件建物2、3につき、売却実施命令(本件建物2、3につき一括売却、売却決定期日・平成九年一一月二八日午後一時)。

平成九年一〇月三一日、抗告人が本件建物2、3についての物件明細書の作成手続及び最低売却価額の決定につき執行異議申立て(平成九年(ヲ)第四三九七号)。その理由は、本件建物2及び同3は、前記のとおり、本件抵当権設定以前から実質上一戸の建物であったから、そのような建物として評価すべきであるのに、各別の建物に復旧することを前提として、従前の評価額から復旧に要する工事費用を控除した額をもって各評価額とすることは、事実を誤認した不当な評価方法であるというものである。

同年一一月一七日、執行異議却下決定(主張の事実誤認はなく、評価方法も適正であることを理由とする。)

(10)  平成九年一一月二八日最高価買受申出人岩崎真由美(買受価額三八六〇万〇〇五八円)に対し、本件建物2、3に係る売却許可決定(以下「原決定」という。)言渡し。

三  当裁判所の判断

(1)  記録によると、更に、次の事実を認めることができる。

a  抗告人は、本件マンションにつき表示の登記のされる前である昭和六一年一二月二日、売主である株式会社初穂から、本件建物2を代金六一八〇万円、同3を六八二〇万円で同時に買受け、かつ、両建物を事実上一戸の建物として使用するため、同社との間で、概ね八五〇万円の工事費用をかけて、隔壁の開口工事、間仕切り等の撤去・新設工事、既設バスの撤去・新設工事、和室の洋室への改造工事、ホームバーカウンターの設置工事等を施工する旨の契約を結び、その工事完了後、建物の引渡しを受けた。

この工事の結果、本件建物2及び同3は、各別の区分建物としての登記がされているけれども、内部は機能的に一戸の建物としての構造を具備するに至った。

b  本件建物2及び同3並びに本件土地を対象として、前記の抵当権が設定されたのは、その後のことである。

(2) このような構造を有する本件建物2及び同3の最低売却価額を定めるに当たっては、各別に区分建物として登記がされている場合であっても、これらを一括売却することを前提とし(民事執行法六一条参照)、上記のように建物としての機能的一体性を有する区分建物として評価することが、適正価額による売却を実施すべき民事執行手続の目的からみて相当であって、これを、各別の建物として各別に評価した上、現状の機能的一体性を否定し、各戸の評価額から各別の建物に修復するために要する工事費用を控除した額をもって評価額とし、これを基礎として最低売却価額を定めることは、最低売却価額の決定手続に重大な誤りがある(民事執行法七一条六号)ものというべきである。

(3) しかるに、前記の事実関係によると、原審においては、本件建物2及び同3を一括売却すべきものと定めたにもかかわらず、各建物を各別に評価した上、抗告人のした執行異議に耳を貸すことなく、前記の建物としての機能的一体性を無視して、各別の評価額からこれらを各別の建物に修復するための工事費用を控除した価額に基づいて最低売却価額を定めたものであるから、前記の説示に照し、最低売却価額の決定手続に重大な誤りがあるものといわざるを得ず、売却を不許可とする場合に当たる。

この趣旨をいうものと解される抗告人の主張は、理由があるものというべきである。

四  よって、売却許可をした原決定を取り消し、岩崎真由美に対する売却を不許可とすることとして、主文のとおり決定する。

原審としては、以上の説示に沿って、本件建物の現況を調査し、評価人に評価をさせた上、改めて最低売却価額を定めて売却を実施すべきである。

(裁判長裁判官今井功 裁判官小林登美子 裁判官田中壯太)

別紙〈省略〉

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